2月25日(日)に終了しました
「静の表層-色の重ね 草木染-」展

たくさんの方にご来場いただき、草木染の優しい色合いを
感じ、触れて頂ける機会となりました。

今回は、結城で活動されている染色作家
田中茂梨さんを招き、話を伺いました。
草木染めや師匠となる人との出会い、素材、
ものづくりに対する想いなど多く語られました。
会場で聞き逃してしまったという方、
ぜひお楽しみくださいませ。
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染色作家 田中茂梨氏インタビュー
(インタビュアー:奥澤順之)
田中茂梨氏菅原匠さんについて
●草木染めに魅入られた菅原匠さんとの出会いについて
50年来の家族ぐるみの付き合いをさせてもらっています。周りに染色関係の人が大勢いて、私もそのうちの一人だったわけです。本当に色んな方がいました。当時染色に既に携わっている人もいたし、これから染色を目指す人もいた。藍染から友禅から、一時久留米絣の人もいたし、中には象牙を藍染で染めるという人もいた。
菅原さんは元々は父の仕事のお客さんだった人の息子さんで、本当は絵描きになりたかったんだけど実家が呉服をやっていたもので友禅をやって、それから藍染に魅入られちゃって、それから藍染を専門にやるようになった。そういう人です。
●菅原さんは白洲正子さんとも親交があったそうですね。
そう。その人の周りに埼玉で織物をやっている人がいて。草木染めでやっていたんだけど、それが白洲正子さんの目にとまって可愛がられていた。そのご縁で菅原さんも知り合ったそうです。
●色んな方を魅了された方なんですね。
そうですね。陶芸の辻晴明さんという方もいたし、藍染紺屋されている方もいたし、それから型絵染で有名な芹沢銈介さんの工房にいらした方も出入りされてました。
●菅原さんのどういったところを師として仰いでいたのですか。
とにかくね、長く付き合うなかで、「ものを見る眼、ものに感ずる心」というのを自然と教わりましたね。私がこの道に入るときにも相談したんですけど、「田中さん、ものをつくるというのは死に物狂いのことなんだよ。とにかく一生勉強しなくてはいけないし、一生感性を磨かないといけない。」と言われましてね。「技術がものをつくるのではない。あくまで心だ。その人の感性がものをつくるのだから技術は影に置け。あまり技術を表面に出してこれみよがしにやると、物欲しげでいやらしくなってしまう。とにかく一生、感性を磨きなさい。」と。一番最初に、それを言われましたね。
草木染めについて
●草花を見て絵に描いたりもされるんですか。
絵は描かないですね。写真は撮りますが。絵心があまりないんですよ。
●草花をずっと見続けて、何かを見出すことはありますか。
やはり我々は自然の中に生きている、あるいは生かされているというのを自然の中に身を置いていると感じますし、自然の色を見ていると心が休まります。そして、草木染めを始めてからなんですけども、色に表情があるかなと思うんですよね。それは光に敏感だからかなと思うんです。草木染めは光の吸収率がいいんですよ。ですから、ちょっとした微妙な光でも敏感に反応する。それが表情となって現れているのかなと思うんですね。そういうことを実際に携わっていて感じます。
●日本人の感性ってすごく繊細な部分がありますね。例えば、桜ひとつ取ってみても色んな桜を描いてきました。そういった敏感な感性を持ちあわせたことが、日本で草木染めが未だに残っている一つの理由かもしれませんね。
制作風景結城での制作について●菅原さんとの出会いもあり、結城に来られたのですが最初はどのようなことを
されたのですか。
最初は地元の人がやっていることを学ばないと仲間に入れてもらえないので、皆さんと同じ化学染料で亀甲絣を5年程やりました。私個人の意見なんですが、細かい柄が好きじゃなくて。なにか違うものをやりたいと思ったのと、草木染めというのが当初から頭にあり、縞が好きなので、じゃあ、草木染めで縞をつくろうと。僕のなかでは、縞というのは究極のデザインじゃないかと思っているんです。
●結城紬は江戸時代に花開いたのですが、粋の文化に支持されていました。田中さんが目指しているのも江戸時代の粋です。かっこいいけども色気がある。見た目のきらびやかさよりも香り立つような格好良さがあります。
慎ましくね。それを目指したいですね。
●奥様も制作に携わってらっしゃいまして、160細工まで織った経験もお持ちです。今では160細工は年間で1、2反出来上がってくるかどうかという希少なものですが、鍛練の先に行き着いた人だけが織れるものです。そのような技術をお持ちの方だからこそ、草木で染めた繊細な糸にも対応でき美しい布が出来上がるんですね。
●化学染料から草木での制作がいよいよ始まったときには、どのように勉強されたのですか。
まったくの独学ですね。本を読んだりしてつくっていたんですけども、工業指導所の先生方には折にふれて教えて頂きました。
結城は堅牢度の規格がとても厳しいんです。なのでいつも、最初は糸に染めて試験を受けて規格を通るものだけで織っています。堅牢度の試験は5段階あるんですね。そのうち、一般的には3級あたりが合格なんですが、結城は一つ上の4級の評価にならないと合格にならない。ドイツ製の大きな電球を20時間当てて、色が焼けなければ合格になります。厳しいんですけども、やっぱりみなさんから大切なお金を頂くのできちんとしたものをつくらないといけないと思っています。なので、全部一反ずつ堅牢度試験を受けてます。
●このお話を伺って私たちは驚きました。草木染めは退色しやすいというイメージがあったので。厳しい審査を通っていることで安心感がありますね。田中さんにとっては大変でしょうけど。
大変です。それはもう大変でした。草木をはじめた当時、待っている間は心臓がどきどきして、万が一受からなかったら組合の審査を受けられなくて不合格品になってしまう。もう、生きた心地がしなかったです。
●様々な色が生まれていますけども、堅牢度との戦いでもあったんですね。
ですから、使いたいという色があってもできないものもあります。とても有名なもので梔子がありますが、あれも結城の規格では合格できませんでしたね。
●そうやって厳しい道を通って生まれてきた色だと思うと、とても感慨深く思います。
そうですね。ただ草木にしても化学染料にしても、いつかはやせていきます。しかし、草木染めの場合は色がやせてもそれなりのいい色を発する。それが一つの特徴でもあると思います。
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後半に続きます。